『人』にフォーカスしたミュージックキュレーション
国内外問わず、”音楽活動”と”音楽に関連するプロダクト・ショップ・デザイン” に関与している『人』にフォーカスし、その『人』が読者の皆さんへレコード・CD・mp3をはじめとする音源や、ライブ動画・ミュージックビデオ・YouTube、音楽サービス・プロダクトを紹介するキュレーションがスタート。
第1回目は、東京発ロックバンド”ATATA“のシンガー「奈部川光義(a.k.a. ナベッカム先輩)」氏によるキュレーション。ATATAをご存知無い方に、恐れ多くも説明させてもらう。
(v.i.a ATATA web)
ATATA:2010年結成。
それまでに、日本のインディミュージックをリードしていたロックバンド”HOLSTEIN“や”MIRROR“、”nenem“、”3cm tour“、”SWEEF“で活動していたメンバー…
・池谷 龍人 :ギター(ex.HOLSTEIN)
・鳥居 大 :ギター(ex.HOLSTEIN, RetromaniA)
・金田 雅史 :ベース(ex.MIRROR, ex.HOLSTEIN)
・岩田”鰯”健太:キーボード(ex.SWEEF)
・大倉 大輔 :ドラム(nenem, 3cmtour)
からスタート。
“BANDWAGON“、”Oatmeal“という圧倒的なライブパフォーマンスで活動していた“奈部川”氏がジョインし、現在のメンバーになった。
(v.i.a ATATA web)
自主企画「The Sound Of Fury」を始め、SNS(主にTwitter)での遊び心、配信・フリーダウンロードでの積極的な音源公開など、今までの「バンド」とは一線を越えた活動方法でリスナーを魅了する。また、パンク・オルタナティブはもちろんの事、ダブ・ヒップホップ・エレクトロ・ハードコアパンクetc…. ジャンルにとらわれないアーティストとも積極的に共演。前途の自主企画「The Sound Of Fury」へも招き、いつも「新しい音楽」を提供しているバンドである。
では早速、“奈部川”氏の脳内を公開いたします。
ナベッカム先輩の音楽講座
『Mineral来日記念~crank!レーベル特集 12選~』
初めまして。
“ATATA(アタタ)“というバンドでボーカルをしております、奈部川と申します。
今回、2月の“Mineral(ミネラル)” 来日に向けて、編集部から何かやって欲しいとの依頼を受けたので、普段はTwitter(@Nabeckhamsenpai) などで語り狂ってる『emo講座』をここAIRで行う事になりました。
リリースバンド、ほとんど売れなかった「とある弱小インディレーベル」に焦点をあててみた。
さて、一口に『emo』と言っても、当時(90年代)ですら様々なタイプのバンドが存在してたので、「これがemoだ!」と言い切るのはなかなか難しかったりします。
なので今回は“crank! (クランク)” という“Mineral(ミネラル)” が、当時作品をリリースしていた「レーベル」に絞って話を進めてみようと思います。
ちなみに正式名称は『crank! A RECORD COMPANY』といって、名前は大仰ですが、リリースしたバンドも玉石混淆、そしてそのほとんどが売れずに終わった弱小インディーレーベルでありました(爆)。
実際、世間的に知られているのは “Mineral(ミネラル)” くらいだと思いますが、それでもemo時代の扉を開いた功績と、世界のインディーロックファンに与えた影響力は現在も計り知れないと思っています。
このレーベルの特徴として、「”ハードエッジ”で”ポストハードコア”的な音を出すバンド」と、「インディー然としたカレッジロックに影響されたバンド」、そしてこの上記二つが合わさった、Mineralに代表される、「現在のemoのプロトタイプを作り上げたバンド」と、大きく3つに分類出来ると思います。
早速、crank!からリリースされたバンドの動画を観ながら解説して行きましょう。
Fireside(ファイアーサイド)『Headacher』
コンピレーションアルバム『(don’t forget to) breathe』を飾る一曲目。歴史に残るemoのオムニバスの大名盤。
俺もこのコンピレーションで人生変わりました。当時主要だったemoバンドを網羅した、『噂のemoって何?』を具体的に世界に提示した意味のある一枚。ちなみにこの“Fireside(ファイアーサイド)” はスウェーデンのバンドです。メンバーにプロデューサーがいたりして、当時から完成された音を出すバンドでした。
Boys Life(ボーイズライフ)『Fire Engine Red』
crank!の裏番長こと“Boys Life(ボーイズライフ)”。DC及びサンディエゴ譲りの不協和音も取り入れたカンザスのバンドです。
聴いて分かる通り、全然垢抜けてないんですが(笑)、この『垢抜けなさ』こそがcrank!のバンドの醍醐味だと思っております。バンド名はディカプリオ主演の映画からだと勝手に思ってるんですがどうなんでしょう。
Mineral(ミネラル)『Gloria』
ここまで、または”AIR”読んでる人には説明不要ですね。
98年当時、俺達の界隈では『Awesome Show Tape』なるVHSテープが内々に回っておりまして、そのビデオでこのライブ映像を初めて観ました。『なるほど。emoのバンドってのはこういう風にライブするのか。音源と一緒でライブの雰囲気もなんだか陰鬱だなぁ』って思ったのを覚えてます。観終わった後には『これが今一番カッコいい』にすぐ変わりましたけど(笑)。YouTubeのない時代でしたからとにかく衝撃でしたね。
Silver Scooter『Pumpkin Eyes』
レーベルの中で一番ギターポップ的な音を出していたバンドです。
謎に来日までしていまして、東京公演ではNahtとtoeが共演していたんですが、天気が悪かったというのもあって、渋谷クアトロがガラガラだったのを覚えてます。曲は本当にいいんですけどね。“crank!” だからやっぱり地味なんだなぁ(笑)
Far Apart(ファーアパート)『Hazel』
これもスウェーデンのバンドです。“Quicksand(※)” 直径のハードエッジさとエモいメロディ。
この7インチ1枚のみのリリースでしたが、“crank!” の目の付け所の良さが分かる佳作だと思います。
※Quicksand(クイックサンド)
現在も2度の活動停止(再結成?)を経て、今なお活動するニューヨーク出身のオルタナティブ・ロックバンド。
中心人物 “Walter Schreifels(ウォルター・シュレイフェルズ)” は、ハードコア重要バンド”Gorilla Biscuits”や、パワルフなemoバンド”Rival Schools”でも活動するemoを語る際に重要となる人物(編集部筆)
The Gloria Record(グロリアレコード)『The Arctic Cat』
“Mineral” 解散後、ボーカルのクリスとベースのジェレミーが結成したバンドです。
音楽性として元々あった “Sunny Day Real Estate” の影響に、「OK Computerの頃のRadiohead」の音響技術が加わったとでもいいましょうか。最初から洗練された音を出していたので、Mineralのあの『拙さ』が好きな人は当時面食らったかも知れません。
Sunday’s Best(サンデーズベスト)『The Hardest Part』
“Braid“や”Rainer Maria“が所属していたレーベル“Polyvinyl”の印象が強いバンドですが、実は“crank!” からもリリースしています。爽やかで適度に激しい。”Polyvinyl“から発表したアルバム2枚は必聴です。
Christie Front Drive(クリスティーフロントドライヴ)『Radio』
すべてにおいて早過ぎたバンド。アメリカ国内でも他のemoバンドに比べて「2年早かった」と思います(当社調べ)。
プロトタイプ中のプロトタイプ。メンバー自身の年齢も若く、解散後にはNew OrderやThe Jam的なバンドを始めたりと、本能の赴くままにどのバンドも短命に終わりました。”crank!” からは前出の”Boys Life“とのスプリットがリリースされています。
Errortype:11(エラータイプ:イレブン)『Take A Bow』
Shiftなどに代表されるニューヨークのバンド特有の『アルペジオではなくリフ』でガンガン押し通すタイプのバンド。crank!のイメージとして、線が細いバンドが連想されますがこのレーベルにしては珍しく男臭いバンドです。
Last Days Of April(ラストデイズオブエイプリル)『All Will Break』
これもスウェーデンのバンドです。挙げてみると“crank!”ってスウェーデンのバンド多いですね(笑)。多分ライセンス契約かな。何回か来日してるので日本でも好きな人は多いと思われます。
Acrobat Down(アクロバットダウン)『Beaver Falls Expected』
個人的な印象ですが「crank!の7インチには名曲が多い」と思っていて、それに見事に当てはまるバンド。このバンドも7インチ一枚のみのリリースでした。ちなみに検索してもこのバンドの情報だけは全然出て来なくて焦りました。それでもいい曲を残したと思うし、この曲の良さは色褪せないと思います。
Jimmy Eat World(ジミーイートワールド)『Crush』
ツアー用に作られた、“Mineral”と“Sense Field”との3ウェイスプリットに収録された曲です。いわゆる”emoバンド”の中で、このバンドが一番売れたんじゃないでしょうか。実際曲もいいし売れたのも納得です。当時のemoバンドの明暗を考える時に、この“Jimmy Eat World”と“The Get Up Kids”を極端に置いて、他のバンドをその極端に置いて比べてみるとその理由が分かると思います。
「垢抜けている」。きっとこれこそがcrank!のバンドに足りなかった部分なのかなと。
ナベッカム先輩の音楽講座のまとめ
以上。crank!からリリースした12バンドを紹介してみましたが如何だったでしょうか。
今じゃ殆どのバンドが解散してしまいましたが、レーベル自体も2005年にリリースした“Neva Dinova”を最後にその活動は止まったままです。リリース作品全41作。全ての作品が良かった訳じゃないけど、emoに特化した個性的なレーベルだったと思います。この機会に是非復活して欲しいレーベルのひとつです。
(プロフィール)
奈部川光義(ATATA)
新代田発FEVER系を名乗るロックバンド『ATATA』のボーカリスト。
音楽を通して色々考えたり文章に起こしたりするのが趣味。
1stアルバム『ATATA』発売中。
http://atataweb.com/
https://twitter.com/Nabeckhamsenpai
(v.i.a ATATA web)
編集後記
いかがでしたでしょうか。はじめて、今回のようにミュージシャン自身によるキュレーションを行いました。奈部川氏による、音楽への”愛情”と”探究心”は、言葉にするのが決して容易な事ではありません。普段からTwitterを通じ、あらゆる音楽を発信し、私たち音楽ファンをワクワクさせてくれました。
これを機に、”crank!”はもちろんの事、emo / indie rock、またはルーツに当たるHardcore Punkを掘り下げて聴いてみてはいかがでしょうか。
そんな奈部川氏率いる”ATATA”。今週末の10月19日のライブで一旦お休みするとの事。それがこちら。
2014.10.19 (日)
東京 ZEPP DIVER CITY
http://hall.zepp.co.jp/divercity/
残響record Presents
[残響祭 10th Anniversary]
open 13:30 / start 14:30
adv 4,200yen / day 4,500yen
w/ te’, People In The Box, cinema staff, mudy on the 昨晩, chouchou merged syrups., ハイスイノナサ, perfect piano lesson, Rumb, 川本真琴, ダイノジ, 雨のパレード, The Octopus Project (US), and more…
なんと国内外の良質バンドをリリースする『残響record』の10周年イベントに参加。公式サイト上では、年内の予定が公表されておりません。ライブを体感するのと同時に今回の”emo”に関する話を奈部川氏にしてみてはいかがでしょうか。
また、上記イベント参加するにあたり、新しいマーチャンダイズを用意している模様。それがこちら。
(v.i.a ATATA web)
“
今回のデザインは『俺達ATATAを残響レコードに紹介した張本人(笑)』であるte’ / Wrenchのベーシストの松田さんにお願いしました。
“ (公式サイトより引用)
数に限りがありますので、必ずゲットしたいファンは、オープンからお台場へ乗り込むべし!!!
また今年の『RECORD STORE DAY』にて販売された7インチレコード『2 SONGS EP』も、大阪の“FLAKE RECORDS”にて絶賛発売中!!! なんと3回目の制作(3rd プレス)との事。
http://www.flakerecords.com/rcminfo.php?CODE=22139
“FLAKEとのタッグも3度目!『ブリットポップ再考』をテーマに掲げた2曲を収録!新曲とBLURの”SONG2”カバー!!!!DLクーポン入りです!!3rdプレスです!(FLAKE RECORDSより引用)”